これはフィクション

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1/12  貧乏人はデジタル財でも使っとけ社会

 

 待ちに待った休日だった。僕はトラベルセンターに向かう。開館はまだなのに、列が出来ている。僕も並ぶ。程なくしてセンターのドアが開いた。入り口の端末に僕のモバイルをかざすと、画面に番号が映し出される。二階の206Fだった。エスカレーターで上がる。

 206Fは丸い形で、スライドドアのポッドだった。扉を開けると中の照明がつく。

「携帯端末を赤いパネルの上に置き、画面に従いヘッドセットをつけてください。」

 音声案内の通りに、僕は端末をパネルに置いた。今日の利用料がクレジットで課金されるようになっている。ヘッドセットを手に取ると、ポッドのドアが閉まる。前髪を掻き分けて被り、プログラムが始まるのを待つ。今日はフランスのモン・サン・ミッシェルを見に行く。

 僕は空港から列車に乗った。切符の購入で少し緊張したが、さすがトラベルセンターのプログラム、問題なく買えた。市街地をしばらく走り、のちに窓には田舎の広大な風景が広がった。列車にゆられ、ついに目的地についた。中を観覧する。天気は保障されていて、きれいな秋晴れだ。何種類かの中からお土産を選び、帰りの列車に乗る。

 空港に着いたところで、ヘッドセットを取る指示が出る。風景にかなり癒されたと思った。僕の端末にはレシートが表示され、三万とお土産の二千円だった。お土産は一階のカウンターで受け取ることになっていた。

 家に帰ると夕刊の一面が目に入る。「若者の間でデジタル旅行の流行で海外旅行の需要が希薄。デジタル旅行は本物の旅行の十分の一の予算で行く事が出来、事件に巻き込まれる心配がない。」とあった。僕は来月のカードの支払いだけを心配していた。