これはフィクション

書く、を気軽にする

1/28 魔法なんてない、呪いならあるかもしれない

 例えば一錠飲むだけで世界がぱっと明るくなり、それまでの暗い自分と決別でき、楽しく暮らすことができる薬があったらどうだろうか。まあそんなものはないんであるが。

 わりと不思議なのは、世の中にはそのようなものが存在するとぼんやりと思っている人がいて、その対象がサプリメントや抗鬱剤、麻薬やそれ以外のよくわからないドラッグだということがたまにあるということを最近知る。

 しかしだ、幻覚体験は人を変えると言う。麻薬というと幻覚、というイメージを持っている人も多いと思うが、中毒で深刻であるのは覚醒剤やヘロインなど気分の高揚、あるいは没落様の安堵をもたらすようなもので、それらにはいわゆるサイケデリクスというような幻覚をもたらす効果は無い。妄想はあるかもしれないが。幻覚を見るというのは以外とハードルが高い。現代日本では希少なサボテンやキノコ、あるいは合成のLSD等を手に入れないといけないからで、そのような意味ではサイケデリック文化というのが過去のもののような扱いを受けるのは妥当であると思う。日本で一番消費されているのは覚醒剤で、24時間働けますか、というコピーは国民性をよく表しているということか。覚醒剤を初めて合成したのは日本人で、市販されていた時期にはよくタクシーの運転手や工員など眠ってはいけない職業の人が常用していたという。それとは知らずに、ダイエット用品や媚薬として薦められ使用してしまう人もいるようなので、安全な?ドラッグ利用の一大原則である、自分が何をどれだけ使っているのかを知る、という原則から遠く離れてしまう危険性がある。原料であるマオウは漢方に普通に含まれているもので、代謝を上げる作用がある。成分を精製した、発見者がメタンフェタミン(覚醒剤の一種)と同じエフェドリンはつい最近まで気管支拡張剤として普通に薬局でも手に入るものであった。それをさらに合成していくと種種の覚醒剤が出来上がる。歴史が長いのだ。

 対して、他国ではより安価か同額であり、使用者が多いヘロインについては日本では殆んど出回ってないようで相場も高いそうだ。麻薬というと高揚と快感、という認識があるがヘロイン利用に関する様々な文献を当たっていくと、結局は麻酔のようなものということがわかる(めんどくさいので興味があったらがんばって調べてください)。つまりこれらは精神の変容を誘導するような幻覚体験は期待できないということであるし、ある程度の知識があって上記の二つを利用する人はそれらを求めているわけではないだろう(と思う。

 では大麻というのはいったい何なのか。この問いに正確に答えるのは難しいし、自分なりに答えを探そうとしたこともあったが、植物の花の部分である、という以外に何か確証のある情報は見出す事ができなかった。一つの原因はその効果が花に含まれる多種の化学物質の作用によるということにある。つい最近まではTHCという単一の物質の効果であると思われていたが、それ以外の物質の比率が人体に与える影響について注目されるようになった。品種により効果が少しずつ違うようであるのはつまりは物質の比率が違うなどの根拠があるようだ。つまりは覚醒剤やヘロインのように、単一の物質であるがゆえ毎度同じ効果を得ることができる、というわけではないのである。幻覚をもたらす植物にありがちな、毒であり食べ過ぎると死ぬ、というようなこともなく、吸引しすぎてもある点で体内への取り込みが止まってしまうという性質もある。つまりは吸引したらこうなりますよ、とは一言で言うことはできないんである。

 おそらくこの一点が、人々が大麻を利用すれば何かを悟ることができるとか、自分が変わるとか、マイナスの面からでは精神病になるとか言い出す原因であると思う。

 実際は自己の変容などがもたらされることはない(と私は感じた)し、もとから幸せを感じやすい人は効果を感じているときも幸せであり、そうでない、悲観的だったりする人は使用中もそうなんである。人生がうまくいってなくて思いつめていて今日しにたい、みたいな人間が大麻を使用すればどうにかなるかというと、おそらくならない。

 では悲観的で暗い性格を治すにはどうしたらいいのか、という問いには、鬱でないかぎりは、自分はそういう種の人間であるということを受け入れてあきらめてしまえば、比較的気楽に暮らすことができるのではないかと思ったりする。